【野球肘】股関節に過度な可動域制限がある投手の一例
『野球肘の正体とは』
野球肘は病名ではなく、投球による肘のケガを総称したもので、正式名称は「離弾性骨軟骨炎」「骨端軟骨損傷」「靭帯損傷」「剥離骨折」などの複数の病名が存在します。
『改善方法について』
改善方法としては、ストレッチを正しく行うことが必須となります。ただし、肘周りのストレッチだけではなく、身体全体にも目を向けることが大切になります。動画サイトなどで「野球肘 治し方」と検索するとたくさんの方法が出てくると思います。中には良いものもあり、それで改善したというコメントが見受けられることもありますが、本当に今の状態に適切な方法なのかは、専門家でもはっきりとは言えない部分があります。
整形外科への受診は必須
肘に痛みが出たら、まずは整形外科への受診をおススメしています。レントゲンを撮ることで、体表面からは確認できない骨の部分に異常が生じていないかがわかるからです。そこでリハビリや痛み止め治療など様々な提案がされると思いますので、当院へお越しの際は、なにを言われたかなどの情報も教えて頂けますと治療やセルフケアの参考になります。
『症状の例』
投球時や投球後の肘の痛み
肘関節の伸びや曲がりが悪くなる
急に動かせなくなる
小指や薬指にしびれが出る
投げていて痺れてくる
肘を押すと痛みが出る
『発症年齢について』
野球肘が発症する年齢は様々ですが、肘の外側に痛みの出る「離弾性骨軟骨炎、上腕骨小頭骨軟骨障害」については、小学校高学年から中学校低学年に痛みが出始めることが多いとされています。野球肘全体的には、子供から大人まで起こりますが、少年野球などでバッティングピッチャーをされている親御さんが発症すると、痛みが長引く傾向があります。コーチとして少年野球に関わっている以上、ご自身のケアを行うことで子供たちへの意識向上の啓発にもなることをよく話しております。
『テーピングの必要性』
野球肘のように痛みが続いている場合、しっかりと完治しないと痛みをかばいながらの投球となってしまい、肘以外の部分にも影響が出る恐れがあります。最も優先すべきは肘の痛みをなくすことなので、野球肘に関してのテーピングはおすすめしていません。
もしテーピングをする場合は、肘の痛みは落ち着いたが、痛くならないか不安な段階の時など、目的によると考えています。
『痛む部位は3種類!』
野球肘には、肘の内側に発生する「内側側副靭帯損傷(内側野球肘)」と、肘の外側に発症する「離弾性骨軟骨炎(外側野球肘)」、後方に痛みの出る3種類があります。
『早く治す方法はこちら』
適切な治療と安静、セルフケアを行うことで早期の回復が見込めます。指導者の知識不足により、肘の痛みを軽く捉え、ケガの重症化が進んでしまうこともあります。指導者の経験も加味する必要がありますが、競技者本人とその保護者の学びや理解も非常に重要な部分です。特に内側が痛む野球肘に関しては、繰り返しの投球動作によって筋肉や靭帯を痛めていることが多いので、2-5週間の投球中止が必要になります。その間に股関節などの投球時に重要な部分のバランス調整も、野球肘の治療の一環となりますので、安静とはただ休むだけではないことをご理解いただきたいです。なお、内側の痛みの場合、靭帯が損傷した場合は手術になることもあります。外側に痛みのある野球肘に関しては、外側の骨同士の衝突で痛みが起こるので早期の治療が必須となります。放置して剥離骨折にもなりかねないので、こちらも手術を避けるためにも無理はせず様子を観察してください。
『原因として考えられること』
野球肘の主な原因は、肘関節の使いすぎです。発症に至るまではある程度の期間を要するので、特に反復練習の多いピッチャーに頻発するケガです。その他の要因としては、投球フォーム、柔軟性、筋力、練習内容、クールダウン方法など、肘関節のみに焦点が当たるケガですが、痛みが出ているということは、それまで長い期間をかけて間違った方法を繰り返していたということとも考えることができます。何が一番の原因なのか、またその周辺の小さな原因なども理解し解決することで野球肘は良くなる傾向があります。
『当院での対応例』
高校1年生 硬式野球部所属 投手
小学校から投手を務め、中学3年時には130キロを超える速球を投げていたが、肘をかばいながらの投球で安定して調子を保つことが出来なかった。打撃も熱心に練習していたため下半身の疲労感が特に強く、投球の際に上半身に力の入るフォームとなっていた。
初診時の痛みはピークではなかったが、大会を控えていたのでメンテナンスを兼ねて受診された。セルフストレッチや柔軟性の大切さを、今まで教えてもらったことがなかったそうで、現在の体の状態(柔軟性、可動域など)をよく理解してもらうことも含めて、施術を開始した。
所見では、肘関節伸展制限(肘が伸び切らない)、肘関節外側の圧痛、股関節可動域制限、大腿四頭筋の硬さ(モモの前)などが顕著に観察された。
各可動性の改善については、鍼灸とストレッチにて処置し、時間をかけて柔軟性を高めてほしい部分についてはセルフストレッチ動画を見て実施してもらった。治療とセルフケアを試行錯誤し定期的な治療で、その後の経過は良好で高校3年の夏の大会では主軸でチームとしても上位に食い込む活躍となった。
《大会期間中の利用の仕方》
鍼灸治療は、試合前は3日前、ストレッチやほぐしの調整は試合前日でも良い。試合後は、なるべく当日または翌日に鍼やストレッチを受けに来てくださっていました。全て高校生ご本人が治療のタイミングを決めていました。野球に真剣に打ち込むあまり、ボディケアを疎かにしている野球選手は多いと思います。鍼灸院関していえば、費用の兼ね合いもあるので定期的な施術は難しいかもしれません。当院ではセルフでもしっかりと調整ができるように、簡単な解剖学や運動学の知識をお伝えしながら施術を進めております。もちろんそういった分野を苦手とする方もいますので必要であればです。
この記事へのコメントはありません。